スペイン語で文を作っていると、「文法的には合っているはずなのに、なんだか不自然に響く」「教科書っぽい固い言い方になってしまう」と感じることはないでしょうか。多くの場合、その違和感の原因のひとつになっているのが、名詞を主語にして文を始めてしまっていることです。

今回の記事では、スペイン語の文章を自然に、かつシンプルにするためのコツとして、できるだけ「人」を主語にして文を始めるという視点を整理していきます。元の日本語は同じでも、主語の取り方を少し変えるだけで、スペイン語らしいこなれた表現になりますので、ぜひじっくり確認してみてください。

名詞主語で始めると難易度が上がりやすい理由

まず押さえておきたいのは、名詞を主語にして文を組み立てると、構造が複雑になりやすく、表現としてもやや硬くなりがちだという点です。もちろん名詞主語の文がすべてダメ、という話ではありませんが、初級〜中級段階の学習者にとっては、結果的に不自然・不必要に難しい文になってしまうケースが多いです。

一方で、人(誰か)を主語にして文を始めると、動詞の選択肢も見えやすくなり、スペイン語としても自然な言い回しになることがよくあります。以下の例を見比べてみましょう。

日本語名詞主語の文人を主語にした文
君の髪の毛は長いTu pelo es largo.(Tú) tienes el pelo largo.
ホルヘの給料は高いEl salario de Jorge es alto.Jorge gana mucho.
体重が増えたMi peso ha aumentado.He subido de peso. / He engordado.
ホセの着けている時計は高いEl reloj que lleva José es caro.José lleva un reloj caro.
君の働き方は変えた方が良いTu manera de trabajar debe cambiar.(Tú) debes cambiar tu manera de trabajar.

どちらのスペイン語も文法的には問題ありませんが、右側の「人を主語にした文」の方が、主語と動詞の関係が明確で、日常会話でもよく使われる自然な言い方になります。

例①「君の髪の毛は長い」:髪を主語にするか、人を主語にするか

まず最初の例です。

  • 「君の髪の毛は長い」
    Tu pelo es largo.
    (Tú) tienes el pelo largo.

Tu pelo es largo.でも通じますし、文法も正しいのですが、スペイン語では「体の一部」はtener構文(tener+定冠詞+名詞+形容詞)で表すことが非常に多いです。

  • Tienes el pelo largo.
    君は髪の毛が長い。
  • Tiene los ojos grandes.
    彼/彼女は大きな目をしている。
  • Tenemos las manos frías.
    私たちは手が冷たい。

このように、人(主語)+tener+体の一部という枠組みで考えると、他の表現にも応用が利きやすくなります。結果として、語彙も文型も同時に整理できるので、学習効率も上がります。

例②「ホルヘの給料は高い」:給料を主語にするか、稼ぐ人を主語にするか

  • 「ホルヘの給料は高い」
    El salario de Jorge es alto.
    Jorge gana mucho.

El salario de Jorge es alto.も間違いではありませんが、「給料」を主語にすると、どうしても説明的で固い印象になります。スペイン語では、「稼ぐ」という行為に注目して、人を主語にしたJorge gana mucho.の方が、会話では自然に使われることが多いです。

同じパターンで、次のような応用もできます。

  • Mi hermano gana poco.
    兄/弟はあまり稼いでいない。
  • Gana suficiente para vivir bien.
    彼は十分に稼いでいて、快適に暮らしている。

このように、「給料」という名詞にこだわるよりも、「稼ぐ」という動詞ganarに切り替えた方が、言いたいことがシンプルに伝わる場面は多くあります。

例③「体重が増えた」:体重を主語にするか、自分の変化として述べるか

  • 「体重が増えた」
    Mi peso ha aumentado.
    He subido de peso. / He engordado.

Mi peso ha aumentado.は、「私の体重」という名詞を主語にして変化を説明しています。一方で、スペイン語では、自分自身を主語にして「太った」「体重が増えた」と言ってしまう方が自然です。

  • He subido de peso.
    体重が増えた。(直訳:体重を上げた)
  • He engordado.
    太った。

どちらも、一見すると動詞の発想が日本語とかなり違うように感じられますが、「誰がどうなったのか」にフォーカスして人を主語にするという視点で考えると、むしろ分かりやすく整理できます。

例④「ホセの着けている時計は高い」:時計を主語にするか、身につけている人を主語にするか

  • 「ホセの着けている時計は高い」
    El reloj que lleva José es caro.
    José lleva un reloj caro.

El reloj que lleva José es caro.も意味は明確ですが、文の主語はあくまで「時計」です。これを、人(José)を主語にして「高い時計を身につけている」と言い換えると、スペイン語としてすっきりした形になります。

  • José lleva un reloj caro.
    ホセは高い時計を身につけている。

このパターンも応用が利きます。

  • Lleva una chaqueta muy elegante.
    彼/彼女はとても上品なジャケットを着ている。
  • Siempre lleva bolsos caros.
    彼女はいつも高価なバッグを持っている。

「何がどうだ」と説明するより、「誰が何を身につけている(持っている)」と組み直した方が、日常的なスペイン語の感覚に近づきます。

例⑤「君の働き方は変えた方が良い」:抽象名詞を主語にしない工夫

  • 「君の働き方は変えた方が良い」
    Tu manera de trabajar debe cambiar.
    Debes cambiar tu manera de trabajar.

Tu manera de trabajar debe cambiar.という文は、主語が「働き方」という抽象名詞になっています。意味は取れますが、やや説明的で、聞き手に距離を感じさせる言い方です。

一方、Debes cambiar tu manera de trabajar.とすると、主語は「君」で、動詞は「変えなければならない」になります。直接相手にアドバイスしているニュアンスが出て、会話として自然な言い回しになります。

  • Debes cambiar tu manera de estudiar.
    君は勉強の仕方を変えた方がいい。
  • Tenemos que mejorar nuestra manera de comunicarnos.
    私たちはコミュニケーションの仕方を改善しなければならない。

このように、抽象名詞(働き方・勉強の仕方など)を主語にするのではなく、それをコントロールする「人」を主語にすることで、スペイン語の文章は一気に整理されていきます。

実践のコツ:名詞主語から「人主語」への書き換え手順

ここまでの例を踏まえて、実際に作文するときの手順を簡単にまとめておきます。スペイン語の文を作る際に、次のステップで考えてみてください。

  • ① 日本語の文の中で、「誰に関する話か」=人をまず特定する。
    (例:君、ホルヘ、私、ホセ など)
  • ② その人が「何を持っている/どう変化した/何をしている」のかに注目し、人を主語にできないかを考える。
  • ③ 「〜は〜だ」というbe動詞型(ser / estar)で無理に訳すのではなく、tener / ganar / subir / llevar / cambiar など、動きを表す動詞に置き換えられないかを検討する。

もちろん、スペイン語でも名詞を主語にした文はたくさん存在しますし、必ずしも「人主語」が正解というわけではありません。ただ、「なんとなく不自然だな」「言い換えられそうだな」と感じたときに、一度「人主語にできないか?」という視点で見直すことで、文章の質がかなり変わってきます。

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今回見てきたように、スペイン語の文章を自然にするためには、文法知識だけでなく、「どこに主語を置くか」「どの動詞で表すか」といった、小さなコツの積み重ねが重要になってきます。こうした感覚的なポイントは、独学だけではなかなか気づきにくい部分でもあります。

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