スペイン語の物語の一文の中に「ん?これどういう意味だろう?」と引っかかる表現が出てくることがあります。今回ご紹介するのは次の一文です。
…, quien dejó escapar una lagrimita y se marchó.
「涙を流して出て行った」と解釈すれば良いですが、受講生の方から「dejar+escaparの意味がよく分からない」とご質問をいただきました。ここには、スペイン語らしい少し繊細なニュアンスが含まれているので、この記事でじっくり整理していきましょう。
動詞dejarの「〜させる」使役用法
今回のポイントは、まずdejarという動詞の使い方です。dejarには色々な意味がありますが、ここで問題になっているのは使役用法です。
使役用法では、dejar+不定詞で「〜させる」「〜することを許す/放任する」という意味になります。
| 構文 | 意味 | イメージ |
| dejar+不定詞 | 〜することを許す/〜させる | 止めずにそのままにしておく |
| dejar+直接目的語+不定詞 | Aが〜するのを許す/Aを〜させる | Aに対して「やらせておく」 |
dejar+不定詞の基本例文
その他の例文を見て理解を確認しましょう。
- El profesor dejó entrar a mis amigos.
先生は私の友人たちを入室させてくれた。 - Mi padre no me deja excusarme.
私の父は私に言い訳させてくれない。
どちらも、誰か(profesor / padre)が「〜するのを止めないで、そのままにしておく」→「〜させる・〜するのを許す」というイメージです。
今回の表現では、このdejarの使役の考え方が、そのまま涙・ため息・言葉などの「出てくるもの」に応用されています。
dejar escaparのイメージ:「出てくるのを止めない」→「こらえきれずに〜がこぼれる」
次に、今回の本題であるdejar escaparです。ここで使われている動詞escaparは、もともと「逃げる・抜け出す・(そこから)出る」といった意味を持っています。
このescaparと、先ほどの使役のdejarが組み合わさると、
dejar escapar ~ :「〜が逃げるのを止めない」→「〜が(自然に/意図せず)こぼれ出るのを許す」
というイメージになります。日本語にすると、文脈によって次のように訳し分けられます。
- (感情や声などを)こらえきれずに漏らす
- (言葉を)うっかり口にしてしまう
- (涙・ため息などが)自然とこぼれる
今回の文:dejó escapar una lagrimita のニュアンス
では、問題の一文に戻りましょう。
Dejó escapar una lagrimita.
直訳すれば、
「彼/彼女は、小さな涙ひとしずくが逃げるのを(外に出るのを)止めなかった」
というかなり回りくどい日本語になります。しかし、ここでのuna lagrimitaは「ちょっとした涙」「涙がちょろっと」といったニュアンスなので、自然な日本語にすると、
- こらえきれずに涙がひとすじこぼれた
- 思わず涙がぽろっとこぼれた
- つい小さな涙をこぼしてしまった
といった訳がしっくりきます。「涙を流して出て行った」と理解すれば問題ありませんが、根本にあるイメージは「涙が自然と(こらえきれずに)出てきた」というものです。
このとき、una lagrimitaはdejarの直接目的語として扱われます。
Dejó escapar una lagrimita.
=(主語は省略)彼/彼女は、涙ひとしずくが出てしまうのを「放っておいた」→ こらえきれずに涙がこぼれた。
そのため、文脈で何を指すかが明らかな場合は、
La dejó escapar.
のように、laで代名詞化することもできる、というわけです。
生理現象・感情・言葉などに使われるdejar escapar
「ひとすじの涙」のように、dejar escaparは、特に「自分では完全にコントロールできないもの」に対してよく使われます。例えば、涙・ため息・おなら・ひと言・笑い声などです。
- Mi madre dejó escapar un suspiro.
私の母は自然とため息が出た。
(=ため息を抑えようとしなかった→ため息が漏れた) - El médico dejó escapar lo que pensaba.
医者は考えていたことをうっかり口にしてしまった。
(心の中に留めておくべきことが、ふと口から出てしまったイメージ) - María dejó escapar un pedo.
マリアは抑えきれずにおならをしてしまった。
(おならが「逃げる」イメージで覚えると忘れにくいです) - Dejó escapar una carcajada.
彼/彼女は思わず大笑いしてしまった。
(堪えようとした笑いが「飛び出してしまう」感じ)
どの例文も、「本当は抑えようと思えば抑えられたかもしれないけれど、結果として出てしまった」というニュアンスがあります。ここを押さえておくと、「辞書的な訳」と「物語の中での本当のイメージ」のギャップが埋まりやすくなります。
まとめ:構文として覚えると読解がラクになる
今回の記事のポイントを簡単に整理すると、次のようになります。
- dejar+不定詞は「〜させる/〜するのを許す」の使役構文。
- dejar escapar+名詞は「〜が出るのを止めない」→「こらえきれずに〜がこぼれる/漏れる」というイメージ。
- 今回のdejó escapar una lagrimitaは、「涙をこらえきれずにひとすじこぼした」といったニュアンス。
- 涙・ため息・おなら・笑い・ひと言など、意図せず外に出てしまうものに広く使える便利な表現。
このような表現は、一つひとつの単語の意味だけを追いかけても、なかなかしっくりきません。「dejar+不定詞」「dejar escapar+名詞」といった構文として丸ごと覚えることで、読解のスピードも、自分で作文するときの応用力もぐっと上がっていきます。
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今回のように、テキストの中で「この一文、なんとなく分かるけれど構造までは説明できない」という箇所は、スペイン語学習では頻繁に出てきます。そこを一つひとつ丁寧に言語化していくことで、読解力と文法理解が同時に伸びていきます。
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